お香は仏さまにお供えするもの(六種供養といって飲食、水、花、灯明、香)の中でも大事なものの一つです。お香と一口に言っても線香、焼香や塗香等 種類も色々あります。
お香とは本来、伽羅(きゃら)・沈香(ぢんこう)・白檀(びゃくだん)などの天然香木の香りをいい、そこから線香、焼香、抹香(まっこう)、塗香(ずこう)などが作られます。
仏教の発祥地であるインドは多くの香木の産地であり、また気候も高温であるが故に悪臭を防ぐ目的もあり、香を焚(た)くと不浄を払い、心体を清浄にするとされます。
仏前に花や灯明と共に香を供えることは供養の基本であり、特に日本の仏教で大切にされている「中陰(ちゅういん)の思想」により香は大事なものとされています。 即ち、私たちがこの世に生れた時を生有(しょうう)とし、生きている間を本有(ほんう・ほんぬ)、死を迎えた瞬間を死有(しう)といい、死有から四十九日の間を中有(ちゅうう)又は中陰といい、次の生を受けるまでの間と考えるのです。そして、この中有の間、亡者は"香を食物"とすると考えられています。ですから仏事供養には香は欠くことのできないものといえます。
お香の種類の中で、抹香は粉末状の香で法要の時に使われ(抹香をひくと言います)沈香や樒(しきみ)の樹皮と葉を乾燥して作られます。線香 は説明する必要もないと思いますが、最近は住宅事情により煙の少ないものやバラ・ユリ・ラベンダー等の香りの香水線香も製品化されています。塗香は字の如く身体に直接塗って心身を清めるものであり、指で一つまみを取り掌の薬指(水指(すいし)という)の元に塗ります。これは水にとけて体の中に入り身口意(しんくい)の三業(さんごう)を清める意味があります。又、真言宗の修法においては自身の三業を清めると共に仏さまのお体にも塗香を塗ります。(直接塗るのではなく観想で塗るのです)
何れにしてもお香は心や体を清浄にするために必要なものであり、人間の煩悩を取り除いて清涼にすることで、戒を保つことにつながるので「持戒行(じかいぎょう)」であるとされます。
このようにお香は仏教にとって必要不可欠のものですが、最近香木が少なくなり価格も高騰しています。中国で投資の対象として売買されたり高額な贈り物として使われていることも影響しているのではないかと思われます。そのような訳で、沈香、特に伽羅は既にお香屋さんでも入手が難しい状況であり、又、販売しても1g3万円以上の高値となっています。伽羅は緑油(りょくゆ)のものが最高とされますが、彼(か)の有名な正倉院の蘭奢待(らんじゃたい)は"天下第一の名香"とされ過去何人かの時の権力者により切り取られたことは有名です。
伽羅は沈香の最高のものとされますが、よく「沈香と伽羅は種類が違う」と言う人がおります。しかし沈香の最高質のものを伽羅というのが定説だと思います。
聖天法、特に浴油法を修する時、白檀や丁字(ちょうじ)、沈香、伽羅を使いますが、伽羅の入手は難しくなってきており将来的には使えなくなるのではないかと思います。その時は入手し得るものでご供養するしかないと思うのですが、伽羅の甘い、あの馥郁(ふくいく)たる香りを懐かしく思う日が来るのかと思うと"一抹"の寂しさを感じます。
合掌
2014年5月1日